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佐藤 沙弥 Saya Sato
コーポレイトディレクション(CDI) マネージャー
京都大学経済学部卒業後、コーポレイトディレクション(CDI)に入社。 ネットベンチャーや流通・小売業、サービス業等において、新規事業立案、事業再生支援、マーケティング戦略立案、事業デューディリジェンスなどのプロジェクトに従事。CDIの新卒採用活動にも携わる。
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就職活動に関する情報は、インターネットや本で溢れるほど存在しています。中でも多いのは、選考に関する情報ではないでしょうか。
どのような選考があるのか、何を見られているのか、どうすれば通りやすいのか、等々・・・。
多くの会社では入社するために選考を通過することが必要ですから、選考に関する情報が多いのは当然のことでしょう。
では、ある企業がなぜその選考方法・選考基準を採っているのかについて、みなさんは考えたことがありますか?
この点について考えを促すような記事や書籍は、意外と少ないように感じます。
ですが、選考方法・選考基準を採っている理由に思いを巡らせることは、その企業や仕事について理解を深めることを大きく手助けしてくれます。
どうせ就職活動に時間を使うのならば、選考に通るための方法論を学ぶだけでなく、選考方法・選考基準の理由についても深く考えてみた方が、みなさんの人生にとって長い目で見てプラスになるのではないでしょうか。
この連載は、コンサルティング会社が選考で見ているポイントについて、コンサルタントとして必要な「素養」という形でのご紹介を通して、この仕事への理解を深めていただくとともに、今後の就職活動・社会人生活に役立てていただくことを目的としています。
コンサルティング会社では、通常の面接に加えて、グループディスカッション、ケース面接、ジョブと呼ばれるグループワークなど、業界特有の選考方法が存在します(なお、今後これらの選考方法について述べることはありませんので、知らない方も心配しないでください)。
このような選考を通じて見ている素養について考えてみることで、コンサルティングがどういう仕事なのか、少しでも理解が深まれば幸いです。
コンサルティングは、近年様々な形態が出てきており提供する価値も多様化していますが、元来の姿は、経営に関する悩み相談を受けて、自分の考えに基づき第三者としてアドバイスをする仕事です。
「企業のお医者さん」と例えることもできるかもしれません。
そのために必要な基礎となる素養は、3つあると考えています。
(1) 情報を集める力
(2) 考える力
(3) 相手に伝える力
この連載では、3つの力の内容やなぜ必要とされるかの理由をご紹介していきます。
それぞれの力をつけるための方法論には、(ゼロではないものの)あまり触れません。
手早く方法論を学びたい方は、他を当たることをお勧めします。3つの力そのものについて考えてみたい方は、このまま読み進めてください。
順番が前後してしまいますが、「(2) 考える力」からスタートします。考える力は、すべての過程において基礎となるからです。それでは、始めていきましょう。
考える力の基本は、「それ、本当?」を繰り返すこと
考える力とは、「ロジカルシンキング」という言葉で表されることが多いです。直訳すれば、「論理的に考える」ことです。ロジカルシンキングを身につけるための本や記事は、就活生だけでなく社会人向けにも非常に多く出ています。
では、なぜそれほどまでにロジカルシンキングは重宝されているのでしょうか。
ここでは、そもそもなぜロジカルシンキングが必要かについて、考えてみたいと思います。
繰り返しになりますが、ロジカルであるための方法論については、この記事には書いてありません。
一つ目の理由は、ロジカルシンキングを身につけるために有用な本や記事はすでにたくさん出ているからです。
もう一つの理由は、方法論を学ぶ前提として、この記事を通してロジカルシンキングの有用性と限界について考えを深めていただきたいからです。
これを飛ばして方法論に走ること自体が、「非ロジカル」であるように思います。
さて、そもそもロジカルシンキング、つまり論理的思考とは何でしょうか?頭の体操のために、「ロジカルではないシンキング」の例を挙げてみましょう。
<飛躍・見落し> 「あの人が社交的なのは帰国子女だからに違いない」
<事実誤認> 「僕はイケメンだから大学ではモテまくるはず」
<条件・因果関係の誤認> 「コンサルはみんなこの本を読んでいるから、この本を読めばコンサルになれるはず」
<過度な単純化> 「ロジカルな人はみんな冷徹だ」
色々な突っ込みどころがあると思いますが、いずれも「それ、本当?」という疑問に集約されると思います。
裏を返せば、論理的であるということは、「それ、本当?」という突っ込みの余地がなく、すっと納得できるということです。
ロジカルシンキングは様々な定義をすることが可能ですが、ここでは、ロジカルシンキングを「言葉・物事の関係性を明確にした上で、思考を進めること」と定義したいと思います。
言葉の定義を明確にし、事実を正しく認識し、因果関係を明確にし、漏れもダブりもなく考えるということです。
「誰が考えても同じ」である思考法が、なぜ必要か?
一方で、論理的であるということは、正しいプロセスを踏めば誰が考えても同じということです。
少し立ち止まって考えてみると、そのような思考に本当に意味があるのか疑問に思えてくるのではないでしょうか。
例えば、何を問題と捉えるかという「着眼」は、論理よりもむしろひらめきから生み出されるものです。
また当然ながら、人を動かすためには論理だけでは不十分ですし、論理が不要であることも多いです(日常生活で考えてみれば、そうですよね)。
このような「ロジカルシンキングの限界」については、連載の最後に述べたいと思います。
さて、誰が考えても同じというロジカルシンキングが有用な理由は何でしょうか。コンサルタントとして働く中で私が思う理由は、3つあります。
① 適切かつ効率的な問題解決のため
コンサルタントとして顧客の悩みを解決するためには、何か問題となっている事象を解決する必要があります。
その前提として、事象を正しく認識していないと、プロセスの無駄と間違った解決策を生み出してしまいます。
相手と事実認識が合わないと、不必要な誤解やいさかいを生みます。論理によってお互いの認識を合わせることは、誤解やいさかいを大きく減らす手助けをしてくれますし、差別や争いを防ぐためにも、論理的思考が活躍できる部分はあると思います。
「誰が考えても同じ」という論理の特性が、いかんなく発揮される領域です。
② 相手を説得するため
論理は、ある主張に至った理由をどんな相手にも正しく伝えることができる、いわば「共通言語」と捉えることができます。
例えば、コンサルタントは長年に渡ってその業界に携わってきたプロフェッショナルに対して、外部の立場からモノを言わなければなりません。
普通なら聞いてもらえませんが、そこに論理的な正しさがあれば、大きな武器になります。論理的に正しいことであれば、業界での実務の経験がなくとも、また新米コンサルタントでも、相手を説得できる可能性はぐっと高まります。
業界での経験が無いからこそ、経験や慣習にとらわれずに一から論理的に考えられる点が、第三者としてのコンサルタントが様々な領域で求められている理由の一つだと思います。
もう一つ例を挙げると、何かアイデアをひらめいたとき、なぜそのアイデアが優れているのかを相手に説明するときにも論理は非常に役立ちます。
あなたの中では直感的に素晴らしいアイデアだったとしても、相手にとっては論理的な説明がなければ納得できないかもしれません。
コンサルタントの実務でも、大きな資源投入を伴う経営判断を取り扱うことは多いです。
その際、やるべきか/やるべきでないかの判断は論理を尽くして考え、また、論理的に伝えていくことが求められます。
裏を返せば、論理を使わなくとも相手を説得できる場合は、論理的でなくとも全く構いません。
ですが、立場や価値観が違う相手、よく知らない相手、はたまた自分のことを感情的に好きではない相手を説得しなければならないこともあるでしょう。
そのようなとき、論理的に伝えようとすることは、お互いのスムーズな理解を大きく手助けしてくれます。
③ 問いへの「感受性」を養うため
論理的に考えること/伝えようとすることを通じて、異なる主張に対する理解を深めると共に、自分の考えに磨きをかけることができます。
これは、東京大学 野矢茂樹教授の著書「論理トレーニング」で述べられている内容をもとに、個人的な解釈を加えたものです。
先に述べたアイデアを相手に伝える例で言えば、論理的に伝えようとすることを通して、自分の考えが至っていなかった点が見えてきます。
直感的に素晴らしいと思ったアイデアでも、論理的に考えていくことで、弱点が見つかるかもしれません。
言い換えれば、「それ、本当?」を徹底的に潰していくことで、自分の考えをより深めることができます。
これと対局にある態度は、自分とは異なる主張を「決めつけ」で排除することです。
よき理解者になる可能性がある相手を初めから排除してしまうのは、大変勿体ないことです。
また、相手を理解しようとすることを通して自分の考えが磨かれる機会を放棄してしまうのも、自分の幅を狭めてしまいます。
もちろん、論理を通して理解し合おうとしても、結果的にわかり合えないこともたくさんあります。それでも、その過程を通して、自分の主張・考えの深みや幅はより広がっているはずです。
論理的思考は、「人を幸せにし得る道具」
全体を通して言えるのは、論理は、自分の考えを深めることと相手とわかり合うことの好循環を生み出し、様々な問題解決につなげていくという、素晴らしい道具の一つだということです。
論理というと、無機質で冷たいイメージをお持ちの人も多いかもしれません。ですが私はむしろ逆で、自分の周りや世の中をより明るく照らしてくれる、温かいイメージを持っています。
ここまで読んでいただければ、相手を「論破」するためだけの論理など、論理の効用を少しも活用できていないことがおわかりいただけると思います。
そう、論理の真価を発揮するためには、明確な意思を持って使うことが肝心です。さもなければ、自分の主張を押し通すだけ、相手を打ち負かすだけの手段に容易に成り下がってしまいます。
ロジカルシンキングがなぜ必要かについてここまで長く述べてきたのは、このためです。
これから論理について学ぶ方はぜひ、論理が世の中をよりよくする温かいイメージを持って、取り組んでいただけたら嬉しいです。
そして、コンサルタントはこの「人を幸せにし得る道具」としての論理を基礎力として働く仕事だということも、印象に残れば幸いです。
一方で、論理で解決できないことは世の中に山ほどあります。また当然ながら、論理的でさえあれば何でも許されるなどということもありません。
さらに、コンサルタントの面白さは論理の先にある、という考え方もあります。このような「論理の限界」については、連載の最後で述べていきます。
■寄稿企業:株式会社コーポレイトディレクション
1986年に外資系戦略コンサルティングファーム出身の10名で設立された戦略コンサルティングファーム
「日本企業の真の変革」を目指し日本企業の特性に合ったコンサルティングアプローチの追求、既存の戦略コンサルティングの枠にとらわれない新たなサービス展開を行う。