BizReach Campus

App Storeから無料ダウンロード

ダウンロード
close
OB/OGが語る

その問題意識、「愚痴」になっていませんか?【戦略コンサル特別寄稿:第3回】

全4回連載の第3弾。戦略コンサルティングファームである株式会社コーポレイト ディレクション(CDI)の方からご寄稿をいただきます。選考を通して見られているポイントについて、学生が持ってしまいがちな一般的なイメージとのギャップを、現役コンサルタントの生の声として語っていただきます。

_______________
佐藤 沙弥  Saya Sato
コーポレイトディレクション(CDI) マネージャー

京都大学経済学部卒業後、コーポレイトディレクション(CDI)に入社。 ネットベンチャーや流通・小売業、サービス業等において、新規事業立案、事業再生支援、マーケティング戦略立案、事業デューディリジェンスなどのプロジェクトに従事。CDIの新卒採用活動にも携わる。
_______________

 今回のテーマは、コンサルタントに必要な素養の3つ目、伝える力です。コンサルタントは相手がいる仕事ですから、考えたことがいくら素晴らしくても、相手に伝わらなければ意味がありません。

 コンサルタントのプレゼンテーションといえば、有名なIT企業の投資家向けプレゼンテーションのような、明快でスマートなものを想像される方もいらっしゃるかもしれません。もちろんそのようなプレゼンテーションの場合もあるのですが、コンサルタントが扱うのは決してそのような伝え方だけではない、ということをお伝えしたいと思います。

 当たり前のことですが、ビジネスの世界で自分の考えを相手に伝えるためには、わかりやすく表現することが大前提です。表現に過不足は無いか、論理的にすっと理解できるか、等々が求められます。
 個人的な意見ではあるものの、就職活動においては、まずはわかりやすく伝えられれば十分だと思います。わかりやすく伝えるのはとても難しいことです。それを学ぶための教材はたくさんありますので、良い教材で勉強して、実践することが大切です。

 今回の記事では、「わかりやすく伝えること」より先にある、コンサルタントにおける伝える世界についてご紹介したいと思います。これまでの2回の連載内容にも増して、就職活動には直接役に立ちません(笑)。コンサルタントが普段携わっている、「わかりやすく伝えることより先の世界」に興味のある方は、このまま読み進めてください。


コンサルタントが目指すのは、相手の「認識を変える」こと

画像
 そもそも、相手に「伝わる」とはどのような状態でしょうか。様々な定義が考えられますが、ここでは、コンサルタントがクライアント(顧客)に提言する場合について考えてみましょう。

 わかりやすいのは、クライアントが知らなかったことを教えて「知ってもらう」という場合です。今まで知らなかった事実や、今まで考えが及んでいなかった新しい問いや仮説を伝えることがこれに当たります。

 もう一段先に進むと、コンサルタントの提言をクライアントが自分自身の考えとして腹落ちするという段階になります。「人から言われたアドバイス」であったものが、自分なりに考えて腹の底から納得することで、「自分自身の考え」になっている状態です。これを、相手の「認識を変える」と呼びたいと思います。コンサルタントには様々な種類があるので一概には語れませんが、少なくともCDIのコンサルタントが目指しているのは、この状態です。

 コンサルタントが伝えたことを、クライアントが自分で考えた言葉・考えであるかのようにしゃべるようになるタイミングに出くわすことがあります。このとき、コンサルタントは「しめたもの」と思っています。相手の「認識を変える」ことに成功しているからです。

 コンサルティング業界ではよく実行支援ということが言われますが、コンサルタントが手足を貸し出すことだけが実行支援ではありません。コンサルタントの提言をクライアントが心から自分のものとして腹落ちし、それを原動力としてクライアントが自ら動くこと。これも立派な実行支援ですし、個人的にはむしろこちらが実行支援の本質だと思っています。

 極端な例ですが、コンサルタントの提言をクライアントが受け入れなかったとしても、その反発の過程を経ることでクライアントの中でより納得度の高い考え・施策がまとまったのであれば、コンサルティングの価値があったという捉え方ができるのではないでしょうか。

 コンサルティングでは、自分の主張を何が何でも受け入れてもらうことよりも、相手の認識がいかにより良い方向に変わるかの方が大切です。なぜなら、提言を受けて実際に行動するのは、コンサルタントではなくクライアントだからです。そのためには、様々なアプローチがあっていいのです。


いい伝え方は、相手と自分の間の「個別解」


 伝え方に正解はありません。しいて言うならば、相手が最も納得してくれる伝え方が正解です。

 事実と論理の積み上げによって論理的に攻めるのが伝わりやすいこともあれば、情理で攻めた方がいい場合もあります。相手の関心事に合わせたストーリー展開を重視する場合は、自分が考えたプロセスは論理的であったとしても、必ずしも論理的に順序立てて伝える必要はありません。むしろ、自分が考えたプロセスにおける論理が相手にとってわかりづらい/関心が無いとすれば、それを論理的に伝えることは単なる自己満足になってしまいます。

 文章で伝えることがいい場合もあれば、コンセプチュアルな絵の方がいい場合もあります。また、結論を先に伝えた方がいい相手もいれば、根拠を述べた後で最後に結論を持ってこないと混乱してしまう相手もいます。優しく語りかけるような表現の方がいい場合もあれば、刺すような鋭い表現で相手を一度突き放し、そこから考えさせる方がいい場合もあるかもしれません。

 個人的に「離れ業」だと思うのは、偉人の言葉や、哲学書や歴史書からの引用文だけを示し、相手に考えさせる伝え方です。CDIでは実際に、そのような言葉だけを書いたスライドを作ることがあります。時代を経て生き残ってきた言葉を借りて、メッセージの輪郭をぼんやりと浮かび上がらせると同時に、相手に時間を掛けて自省を促した後にメッセージの核がすとんと腹落ちする、そんな伝え方だと思います。

 いい伝え方は、相手のタイプと共に、伝える側の持ち味によっても様々なパターンがあり得ますから、コンサルタントにとって伝える力は一番奥が深い素養と言えるかもしれません。


要点を簡潔に伝えてしまうことによる、相手の思考停止の危険


 コンサルタントは「エレベーターピッチ」で伝えなさい、と言われることがあります。エレベーターピッチとは、クライアントとエレベーターで居合わせたと想定して、階に着くまでの時間(約30秒間)で要点を絞ってプロジェクトの結論を伝えるという手法のことです。世の社長は多忙ですから、エレベーターで一緒になったときの30秒間で簡潔に伝えられるようになるべき、というわけです。事業プランなどのようにto doやhow toを直接問われている場合は、このように結論だけを端的に伝えることが有効かもしれません。

 しかしながら、会社・社長からの相談に答えるためには、to doやhow toを答えるだけでは不十分な場合があります。なぜそれをやるべきかという ”why?” をセットで伝えなければ、相手は腹落ちせず、プランは実行されないかもしれません。さらに、そもそも相手にとっての解決すべき問題は、相手の想定とは全く違うところにあるかもしれません。このようなコンサルタントの着眼を伝えようとしたとき、30秒で相手の認識が変わるはずがないと思いませんか?

 相手の認識を変えるためには、時間をかけて伝えることが必要かもしれませんし、場合によってはプロジェクトの報告として伝えるだけでは不十分で、相手と考えるプロセスを共にすることでしか、本当に伝わらないこともあるかもしれません。

 むしろ、本当に大事なことを要点にまとめて伝えてしまうことは、相手の頭を止めてしまう危うさすら孕んでいると考えます。コンサルタントが相手に考えることをやめさせてしまうのだとしたら、それは全くの本末転倒ではないでしょうか。なぜなら、繰り返しますが、提言を受けて実際に行動するのはコンサルタントではなくクライアントだからです。

 コンサルタントは相手の代わりに考える存在では決してなく、自分の強い主張を持ちつつも、最終的には相手が考えを深め力強く実行することを促す、つまり「触媒」のように作用することが、本質的な価値の一つだと思います。


「怒り」を「相手を動かす力」に変えることの難しさ


 余談になりますが、人間が怒りを感じる要因の一つは、相手・周囲の環境が自分の思い通りにならないため、という考え方があります。このような怒りを手放すためには、相手・周囲の環境を変えることはそもそもできないことを受け入れ、自分の心の持ちようを変えるように努めることです(この対処法は、日常生活で大いに役立ちます。ぜひ実践してみてください(笑))。

 この前提に立てば、相手の認識を変えるという営みは、そもそも基本的には不可能に近いことであり、もし達成しようとするならば怒りに近い膨大なエネルギーが必要ということになります。もちろん物理的に怒っているわけではありませんが、コンサルタントがやろうとしているのは、怒りに近い膨大なエネルギーを向けて相手を変えようとすることだと言えます。

 コンサルタントといえば、冷静沈着なイメージをお持ちの方もいるかもしれません。ですが、冷静さも兼ね備えた上で、何かを変えたいというエネルギーを持たなければ、本当に相手を動かすことはできないと思います。コンサルタントの中には、「クライアントと知的格闘技をしている」と表現する人もいるくらいです。

 物事に対して怒りに近い膨大なエネルギーを持てる、つまり、他人や世の中に対して「これっておかしい」「こうあるべき」といった問題意識を抱くことができるのは、コンサルタントに向いている人が持つ一つの貴重な能力だと思います。このような問題意識を抱くことは、大変なエネルギーが必要であり、かつ対象となる物事に愛情を持たなければできないことです。

 ですが、もやもやとした問題意識をただ表に出すだけでは、相手はなかなか変わりません。確かに、当事者間であれば、問題意識を持った時点で表明するだけでも意味があると思います。しかし、コンサルタントは第三者として相手を動かす立場であり、自分は当事者ではありません。そのような人から問題意識だけを言われても、「外野のくせに口だけ偉そうに」という気持ちになるのが常ではないでしょうか。

 第三者の立場の人間が、自分本位でただ問題意識を表明しても、それは相手を動かす力を持たない批判であり、さらに言えば単なる「愚痴」になってしまうのではないでしょうか。このようなあり方は、周囲の人を誰も幸福にしないどころか、問題意識が解決しないというもやもやが余計に浮き彫りになり、消化不良を招いてしまうように思います。

 ビジネスの世界で「愚痴なんて」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、コンサルタントの第三者性は、高い問題意識が簡単に「愚痴」に成り下がってしまう危険と常に隣り合わせだと思っています。

 前述の通り、外部の人からただ指摘をされても、その人は解決に向けて実際に行動するわけではないのですから、普通はすんなり受け入れられないものだと思います。しかも、その指摘が図星を突いていて、かつ核心的な問題であればあるほど、反発したくなるのが人間ではないでしょうか。強くコンプレックスを抱いている物事であればあるほど、他人から指摘されると怒りを感じてしまうのと同じです。

 さらに、岡目八目という言葉の通り、外の立場から眺めていると、問題の核心が思いのほかよく見えてしまうこともあります。まさに、企業がコンサルタントを雇う理由の一つが、より問題の見えやすい客観的な立場の人に相談したいというニーズです。しかしながら同時に、当事者ではない人間がいとも簡単に核心に触れているように見えてしまうことで、反発を招きやすくなるという矛盾を抱えてしまうことにもなると思います。

 第三者であるということは、当事者ではないため伝わりにくい難しさ、そして、外部の立場だからこそ「よく見えてしまう」難しさ、という二重苦を背負っている状態だと言えるのではないでしょうか。

 そのようなとき、問題の難しさそのものに相手の立場で寄り添うことや、簡単に変われないのはそれなりの理由があるという「相手の論理」に思いを巡らせる想像力があれば、伝える力の一助となるかもしれません。それを大きく助けてくれる可能性があるのが、前回までの記事で述べてきた、論理的思考によって互いを理解しようとすることや、「偏食しない」情報蓄積に基づく筋の良い問いと仮説です。

 その上でさらに必要なのは、相手を何とか良い方向にしたいという愛情であり、時には相手と行動を共にすることであり、最終的には伝えなければならないことを考え抜いたという自負から生まれる「気迫」なのだと思います。

 「その問題意識、『愚痴』になっていませんか?」という問いは、外部の立場から相手の認識を変えることに携わる人間が、常に自問しなければならないことだと思います。問題意識を「相手を動かす力」に変換するためには、まずは基礎力としてわかりやすく伝える力が必要ですが、相手を納得させるための自分なりの持ち味も磨く必要がありますし、相手への関心・想像・思いやりも必要です。
このような力を磨きながら、本当に相手を動かすことができる瞬間に立ち会えるのは、感動すら覚える貴重な瞬間だと思っています。第三者としての伝える力を磨くのは終わりの無い道のりですが、そこに何か興味を持っていただけた方には、ぜひこの世界に飛び込んでみてほしいと思います。
画像

■寄稿企業:株式会社コーポレイトディレクション
1986年に外資系戦略コンサルティングファーム出身の10名で設立された戦略コンサルティングファーム
「日本企業の真の変革」を目指し日本企業の特性に合ったコンサルティングアプローチの追求、既存の戦略コンサルティングの枠にとらわれない新たなサービス展開を行う。

前回の記事はこちら

なぜロジカルシンキングが必要か、ロジカルに説明できますか?【戦略コンサル特別寄稿:第1回】

情報収集で、「偏食」していませんか?【戦略コンサル特別寄稿:第2回】