こんにちは!ビズリーチ・キャンパス編集部、総合商社研究チームです。
世界各国でさまざまなビジネスを創造する「総合商社」。その業界研究のためのアプローチのひとつとして、ビズリーチ・キャンパスでは業界研究「グローバル・プロジェクト」と題し、各総合商社が実際につくり上げてきたビジネス事例を上・中・下の全3回にわけて紹介しています。
業界研究「グローバル・プロジェクト」7つの地域、16の事例
【上】東南アジア・中国・中東
【中】ヨーロッパ・アフリカ
シリーズ最終回の今回は、「南北アメリカ」「日本」の2つの地域がテーマ。両地域で総合商社が展開してきた5つのビジネス事例をご紹介します。
グローバル・プロジェクト事例「南北アメリカ」
広大な土地と豊かな天然資源をもつ南北アメリカ大陸。
世界経済の中心地であるアメリカ国内はもちろん、その周辺国や南米でもありとあらゆるビジネスが展開されています。
丸紅: 穀物メジャー、ガビロン買収 @米国【食料】
総合商社トップの穀物取引量を誇る丸紅。
2013年、丸紅は米国3位の穀物メジャーGavilon Holdings, LLC (ガビロン社) の穀物・肥料の両事業を買収。
丸紅の投資案件としては過去最大となる約36億ドル (約2,800億円) を投じ、米ネブラスカ州を拠点に穀物・肥料のトレーディング事業、流通ネットワーク事業を展開するガビロンを傘下に収めました。
この買収によって、丸紅はもとより強みとしていた小麦・大豆・トウモロコシの取り扱いをさらに強化し、北米地域での集荷・保管・輸出の体制を確立するねらいです。
買収時に見込んでいたシナジーが思うように発揮されず、2015年3月期にはガビロン買収時ののれんで500億円の減損を計上するなど、投資家の厳しい目に晒されてきたガビロン事業。
2017年3月期にはようやく上向きを見せていますが、ガビロン事業が丸紅の業績を大きく左右しうるキー・プロジェクトであり、今後の動向も目が離せない案件であることには変わりないでしょう。
【プレスリリース】
米国 Gavilon Holdings, LLC の持分の取得 (子会社化) に関するお知らせ
【参考】
丸紅、減損700億円より重いガビロン失速 (日本経済新聞)
丸紅、「減損1200億円」を招いた2つの誤算 (東洋経済オンライン)
三菱商事: ESSA天日塩事業 @メキシコ 【化学品】
三菱商事は、メキシコ政府との合弁会社であるExportadora de Sal, S.A. de C.V. (ESSA)を通じ、メキシコで世界最大級の天日塩田事業を展開しています。
塩は現代の化学工業を根底から支える基礎原料であり、世界各地に大きなニーズが存在します。
ESSAでは年間およそ700万トンの塩が生産され、また三菱商事のネットワークによって世界各地に供給されています。
1973年、三菱商事は当時アメリカの企業が保有していたESSA株式を買収したうえで、メキシコ政府にESSA株式の一部を割譲。
メキシコ政府とのジョイントベンチャーとしてESSAを再始動させました。
それ以来、ESSAは40年以上にわたって世界各地へ良質な天日塩を供給し続けてきました。
現在、ESSAへの出資比率はメキシコ政府51%:三菱商事49%となっており、また天日塩を輸送するための船会社も合弁企業として設立するなど、総合商社が現地政府と良好な関係を築きながら共同でプロジェクトを推進している好例です。
【参考】
三菱商事 プロジェクト物語 vol.1 ESSA
住友商事: 銅鉱山プロジェクト @米国・チリ 【金属】
住友商事のコア事業のひとつとして金属事業、特に銅鉱山事業が挙げられます。
そのうち代表的なものが、銅の産出量でそれぞれ世界3位、4位のモレンシー銅鉱山 (米国)とセロベルデ銅鉱山 (チリ) への出資および経営参画です。
これらの銅鉱山において、住友商事は米国最大手の製銅会社Freeport-McMoran Copper & Gold Inc.、そして日本の住友金属鉱山とパートナーシップを締結し、銅の精鉱と銅地金の生産・販売事業を展開しています。
一方、近年はこの領域において苦戦を強いられるケースも少なくありません。
同じく住友商事・住友金属鉱山が出資するチリのシエラゴルダ銅鉱山では、銅価格の低迷や生産効率の悪化などから、2016年3月期から2年連続で巨額の減損を計上。
この2年間での両社の累計減損額は合計2,000億円近くにのぼります。
しかし、住友商事にとって銅鉱山ビジネスは、なお重要なビジネス領域のひとつでしょう。
そもそも住友グループの源流は江戸時代の別子銅山 (愛媛県) の経営に端を発します。
近年の苦戦は無視できないとはいえ、300年以上の長い歴史をもつ銅鉱山事業は、今後も住友商事が粘り強くアプローチしていくであろう領域のひとつです。
【プレスリリース】
モレンシー銅鉱山増産プロジェクトへの参画について
セロベルデ銅鉱山拡張プロジェクトの承認について
【参考】
[チリ銅鉱山で巨額損失、住友鉱が累計1500億円-投資判断甘かったとも (Bloomberg)]
(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-02-07/OKZTOG6JIJV301)
住友商事 事業紹介「鉱山経営に参画し、銅を安定的に供給し続ける」
グローバル・プロジェクト事例「日本」
少子高齢化と人口減少が進行する一方、なおも世界第3位のGDPを誇る日本。
総合商社といえば海外案件ばかりに目が行きがちですが、ビジネス領域によっては国内収益が全体の80%以上を占める部署も存在します。
伊藤忠商事: 「EDWIN」ジーンズ事業【生活消費】
繊維分野を祖業とする伊藤忠商事は、日本最大手のジーンズメーカーであるエドウイン・ホールディングスの株式100%を取得しています。
エドウインHDは自社ジーンズブランド「EDWIN」をはじめ、北米ブランド「Lee」「Wrangler」「ALPHA INDUSTRIES」のライセンスを保有する国内最大手のジーンズメーカーです。
「EDWIN」ジーンズを中心に人気アパレルブランドを展開する同社ですが、2012年に債務超過と粉飾決算が発覚。
リーマンショック後の円高によって為替デリバティブ取引での損失が膨らみ、単独での経営再建が難しい状況に陥っていました。
2014年、そんななかでエドウインHDに助け舟を出したのが伊藤忠商事でした。
「GIORGIO ARMANI (ジョルジオ アルマーニ)」や「Paul Smith (ポール スミス)」、「CONVERSE (コンバース)」などのライセンスを保有するなど、ブランドビジネスに強みをもつ伊藤忠商事。
その知見とネットワークを活かした営業サポートや事業基盤の整備、ガバナンス強化などを通じ、エドウインHDの企業価値向上をめざしています。
なお今年6月、伊藤忠商事は毎週金曜日を「脱スーツ・デー」とすることを発表。
毎週金曜日はカジュアルな服装を社員に推奨する取り組みで、ジーンズやスニーカーなども解禁したことで話題を呼びました。
金曜日になると「EDWIN」のジーンズで出勤する社員もいるようです。
【プレスリリース】
エドウイングループとのスポンサー契約締結について
【参考情報】
伊藤忠の支援で、国産最後の砦「エドウイン」は甦る (日経BP)
エドウイン再建、なぜ迷走?支援始動する伊藤忠の狙いと、岐路迎えるジーンズ業界の行方 (Business Journal)
伊藤忠が「脱スーツ」 毎週金曜、ジーンズOK (日本経済新聞)
住友商事: テレビ事業「J:COM」【ICT】
住友商事は、ケーブルテレビチャンネルを運営するジュピターテレコム (J:COM) へ出資するなど、TVメディア領域に注力しています。
J:COMは1995年に設立された日本最大規模のケーブルテレビ企業。
ケーブルテレビ事業以外にもモバイルデバイス事業「J:COM MOBILE」など消費者向けサービスを幅広く展開しており、マスコットキャラクター「ざっくぅ」は広く認知されています。
住友商事はJ:COMの株式50%を保有し、ケーブルテレビ事業の強化はもちろんのこと、ほかの事業に対しても総合的なサポートを行なっています。
とりわけ、2016年4月の電力自由化をうけて勢いを増す電力サービス「J:COM 電力」は、住友商事の総合力が活かされている好例です。
サプライヤーとしては住友商事グループの電力会社・サミットエナジーを、また供給先としては住友商事のマンション「クラッシィハウス」を結びつけるなど、グループの総合力を活かして「J:COM 電力」の事業をサポートしています。
さらに、住友商事はJ:COMと連携したうえで、TVショッピングチャンネル「ショップチャンネル」を運営するジュピターショップチャンネル株式会社へも出資しています。
価格変動リスクをはらむ資源分野と異なり、メディア事業は安定的な収益が期待できるビジネスです。
事実、2016年3月期には「J:COM」「ショップチャンネル」の2事業からの取り込み利益で計365億円 (純利益ベースで「メディア・生活関連事業部門」全体の約58%に相当) を計上するなど、収益の中核を担っています。
同領域では伊藤忠商事も「スカパーJSAT」へ出資していますが、メディア領域を重点注力分野のコアに位置づけているという点においては、住友商事は総合商社として独自の路線を歩んでいると言えそうです。
【プレスリリース】
J:COM/KDDIによるショップチャンネルへの資本参加について
【参考情報】
人々の生活を広範にサポートする日本最大のケーブルテレビ企業 ―ジュピターテレコム―
テレビショッピングは最高のエンターテインメント
住商、「優等生」買い戻し JCOMがTV通販最大手買収 (日本経済新聞)
最後に
全3回に渡ってお送りした「グローバル・プロジェクト」シリーズでは、総合商社が実際に推し進めてきたプロジェクトについて、7つの地域ごとに合計16事例をご紹介しました。
総合商社の業界研究を進めるうえで、こうした実際のケースから業務内容のイメージをつかむことは極めて有効です。その業務内容を理解し、かつそれが自分の志向にマッチしていると感じた方は、実際に総合商社に勤務する先輩とOB訪問で会ってみましょう。ご自身のキャリアについての仮説を検証する、有意義な機会になるはずです。
業界研究「グローバル・プロジェクト」7つの地域、16の事例
【上】東南アジア・中国・中東
【中】ヨーロッパ・アフリカ
【総合商社】業界研究シリーズ
・「まず"トレーディング"から知ろう」仕事内容を解説
・ 「総合商社の本質とは?”事業投資”を理解しよう」
・「あなたは商社で何したい?」10個に分けて理解する!総合商社のビジネス領域
一次情報を得て、自分の未来を見つけに行こう
採用ホームページやニュースなどのメディアを読んで、業界・企業研究に励むことはとても大事なことです。 しかし、それらの多くは二次情報に過ぎません。何かしらのバイアスがかかっており、正しい情報であるかどうかは自身で選択していかなければなりません。
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