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OB/OGが語る

ロジカルシンキングにはできないことを、ロジカルに説明できますか?【戦略コンサル特別寄稿:第4回】

全4回連載の最終回。戦略コンサルティングファームである株式会社コーポレイト ディレクション(CDI)の方からご寄稿をいただきます。選考を通して見られているポイントについて、学生が持ってしまいがちな一般的なイメージとのギャップを、現役コンサルタントの生の声として語っていただきます。

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佐藤 沙弥  Saya Sato
コーポレイトディレクション(CDI) マネージャー

京都大学経済学部卒業後、コーポレイトディレクション(CDI)に入社。 ネットベンチャーや流通・小売業、サービス業等において、新規事業立案、事業再生支援、マーケティング戦略立案、事業デューディリジェンスなどのプロジェクトに従事。CDIの新卒採用活動にも携わる。
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前回までの3回の記事で、考える力、情報を集める力、伝える力という、コンサルタントに必要な3つの素養について述べてきました。うち考える力については、「ロジカルシンキングの限界」に関する説明がまだ残っていますので、以下で述べていきます。


コンサルタントのおもしろさは、論理の先にこそある


 第1回の記事で、論理的であるということは、正しいプロセスを踏めば誰が考えても同じであると述べました。だからこそ、異なる考えを持つ相手とわかり合うために、論理は強い力を発揮します。
 ですが、論理は万能ではありません。コンサルタントとして働く中で私が感じる論理の限界は、3つあります。

①論理的思考だけでは「ひらめき」を生み出せない

 論理的思考では正しいプロセスを踏めば誰が考えても同じですから、裏を返せばこれ単体ではいわゆる「ひらめき」を生み出すことはできません。ひらめきは、右脳的思考や直感といった言葉でも言い換えることができると思います。

 論理は仮説検証にはとても有効ですが、そもそも筋の良い仮説を作るときには愚直な情報収集とひらめきが重要であることは、第2回で述べました。また、問題解決においては、問題点の特定までは論理が有効ですが、その先に解決策を考案し選択する際にはひらめきが重要になります。さらに、そもそも何を問題と捉えるかという「着眼」も、論理というよりはひらめきから生み出されるものです。

 新商品のマーケティングを例に取って、論理とひらめきの役割分担を考えてみましょう。新たな商品を開発する際の起点となるコンセプトは、マーケターが顧客に関するあらゆる情報をひたすらインプットし、自分の人生経験や価値観も混ぜ合わせて「ひらめく」ものです。仮説検証型のアプローチで効率的に集めた情報だけを論理的に積み上げても、世の中を驚かせるような新しいコンセプトは生まれません。

 次に、そのコンセプトがなぜ優れているかを説明したり、穴が無いかを確認したりする段階では、論理が力を発揮します。この検証の段階を踏むことで、コンセプトは「それ、本当?」を何度も問われることにより、洗練されていきます。また、マーケティングの際に攻めるべき市場や打ち出すべきポイントも明らかになり、戦略も練られていきます。

 戦略を施策に落とし込む段階は、ひらめきの出番です。施策として一番わかりやすいのは広告です。ターゲットや訴求ポイントは論理的に導くことができますが、それをどのようなキャッチコピーやビジュアルで表現するかは、右脳的思考の領域です。広告の表現アイデアに対して論理だけで優劣をつけることができないのは明らかでしょう。このように、論理とひらめきは役割分担しながら問題解決をしていきます。

②論理だけでは相手を説得できない

 日常生活で考えてみればよくわかると思いますが、人を動かすためには論理だけでは不十分です。「言っていることは正しいけど、なんか嫌な人」というのは、誰もがイメージするところがあるのではないでしょうか(笑)。コンサルタントは相手を動かす仕事ですから、このように思われてしまっては意味がありません。むしろ、「理由はよくわからないが、あなたが言うのだからやってみよう」と思わせる方が、コンサルタントとしては価値があります。

 そのための伝え方の手段は、相手と自分の間の「個別解」であること、また、相手への愛情や考え抜いたという気迫が根底にあるのが重要ということは、第3回で述べた通りです。

③物事の判断基準は論理だけではない

 こちらも日常生活で考えてみればよくわかると思いますが、論理的でありさえすれば何でも許されるなどということは全くありません。

 例えば、会社の目標を「より多くの利益を創出すること」と定義したとします。そのための様々な打ち手があるとして、論理的に考えて採るべきは、一番多くの利益が出る打ち手でしょう。
 しかしながら、社会規範や倫理に鑑みていいかどうかは、別の話です。また、実行したいかどうかという「好き嫌い」(「感情」と言い換えてもいいかもしれません)だって、立派な判断基準です。

 個人的に感じるのは、特に「好き嫌い」は決して疎かにしてはいけない判断基準だということです。なぜなら、「好き嫌い」はまさにその人・会社らしさそのものを表す判断基準だからです。
 合理的であっても、「嫌い」であれば、勧めるべきではないかもしれません。また一方で、「嫌い」だとしても、その人・会社のためには何としても受け入れてもらう必要があるかもしれません。その場合、相手「らしさ」に反する提言になってしまいますから、力を尽くして伝えなければなりません。


 以上3つの論理の限界を考慮すれば、コンサルタントの面白さ・腕の見せ所は、むしろ論理の先にあると言えるのではないでしょうか。当たり前のことですが、「誰が考えても同じ」という論理の世界だけにとどまっていては、新しい驚きを生み出すことはできません。コンサルタントに限らず論理を扱う人間は、論理の先の世界を見ながら必要な場面で論理を最大限使いこなすことが非常に重要であると感じます。

テクニックに走る前に、立ち止まって考えてみたいこと

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 最後に、本連載の結びとして、全体を通したテーマについてお伝えしたいと思います。

 「錯覚の科学」(クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ著)という本に出てくる、“invisible gorilla”という有名な実験があります。黒いシャツを着たチームと白いシャツを着たチームがバスケットボールのパス練習をする動画を見て、白いシャツを着たチームがパスをする回数を数えるというものです。(もしこの実験をご存知でない方は、webで動画を見ることができますので、ぜひご覧になってから以下を読んでいただくことをお勧めします)







 この動画の途中で、選手の間をゴリラの着ぐるみを着た人間がゆっくり通り抜けるのですが、約半数の被験者がそれに気づかなかったといいます。白いシャツを着たチームのパス回数を一生懸命数えていると、堂々とゴリラが登場しても全く気付かない、というわけです。

 この実験結果に対しては様々な解釈が可能だと思いますが、私は、効率性・合理性の限界を感じます。「白いシャツを着たチームがパスをする回数を数える」という目的に集中して効率的な手段を採れば、目的は正しく達成されるでしょう。これは、きわめて合理的なことです。しかしながら、このような合理性の追求によって、「ゴリラが登場する」という、普通に考えれば気が付くはずの重大な物事を見落としてしまうことにつながり得るのです。

 与えられた「お題」のために、効率的なやり方に従って、正しく目標を達成するということ。この一見すると正しいけれど危険が潜んでいる営みを促す動きは、身近なところに様々な形で存在しているのではないでしょうか。

 例えば、昨今の就職活動にはその側面があるかもしれません。選考を通過しやすいエントリーシートの書き方、業界ごとに喜ばれる面接の受け答えの仕方、有利に内定を取るための人脈の作り方、等々・・・。もちろん、それらの中には役に立つものもたくさんあります。ですが、自分で選び取る意識を持たずに内定を取るためのノウハウにのめり込みすぎるのは、「白いシャツを着たチームがパスをする回数を一生懸命数えてゴリラが見えなくなっている状態」ではないでしょうか。

 あるいは、戦略コンサルティング業界にも、効率性・合理性の限界が訪れているように感じることがあります。戦略コンサルティングの起源には諸説ありますが、経営とは経験に基づいて行うものだったのに対し、第三者が経営を「科学」し、外部からアドバイスをするようになったことが、コンサルティングの黎明期に生み出された新しい価値の一つと言われます。ここで、経験の無い若者が外部からモノを言うために強い武器となったのが、ファクトとロジックです。

 そして、日本で戦略コンサルティングが驚きをもって迎えられた時代から30年以上が経ち、コンサルティング会社が活用してきた分析のフレームワークはノウハウ化され多くの企業が使いこなすようになっています。MBAホルダーも多くの企業に存在し、経営の分析ができる人は非常に多くなりました。 また、これは必ずしもコンサルティング業界が発端というわけではありませんが、ロジカルシンキングの方法、効率的な情報収集の方法、わかりやすく伝える方法といったスキルについても、効率的に身に付けるための方法論が溢れるほど存在するようになりました。

 つまり、効率的・合理的に経営を「科学」することは、特に珍しいことではなくなったということです。それどころか、効率性・合理性の波がビジネスの世界全般に訪れているように見えます。これはまさに、「ゴリラが見えない状態」になりやすいと言えるのではないでしょうか。こうした状況を受けて、効率性と合理性を活用してきたコンサルタントは、その限界に直面しやすい立場にあることを特に強く自己認識する必要があると思います。

 ロジカルシンキングができるのはとても大切なことですが、それだけをもって何者かになれるわけではありません。

 効率的な情報収集は、若手がパフォーマンスを出すためにはとても大切なことですが、自分ならではの発想を生み出すことにはなかなかつながりません。

 わかりやすい簡潔な表現によって、見過ごされてしまう物事・絶対に伝えられない物事が、世の中には確かに存在します。


 コンサルタントはこれまで以上に、効率性と合理性の限界に向き合い、それらを自ら外していくことが求められると思います。大手のコンサルティングファームがデザイン機能を持ち始めているのも、その一つの流れでしょう。CDIでも、様々なチャレンジを行なっています(気になる方は、ぜひエントリーして社員の話を聞きにきてください(笑))。

 この連載全体を通したテーマは、世の中に溢れるテクニックに走る前に、様々なスキルが抱える可能性と限界について考えてみることで、「効率性・合理性にひた走った場合に見えなくなるものがたくさんあるのではないか」という問いかけを試みることでした。
 そんな問いかけは、多くの人にとっては意味が無いかもしれない、例えば、「問いはいいから答えを教えてよ」と思う人の方が普通なのかもしれません。この問いかけは、就職活動・社会人生活・その他の日常生活の中で何かもやもやとしたものを抱える、普通ではない(かもしれない)人に向けたものです。そのような人にとって、何かをじっくり考える・気づくきっかけになれば、とても嬉しいです。 また、このような問いかけに面白さを感じる方は、ぜひコンサルティングの世界に飛び込んで活躍してほしいと思います。そして、その場としてCDIに興味を持ってもらえるのであれば、こんなに嬉しいことはありません。毎回長い文章にお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。
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■寄稿企業:株式会社コーポレイトディレクション
1986年に外資系戦略コンサルティングファーム出身の10名で設立された戦略コンサルティングファーム
「日本企業の真の変革」を目指し日本企業の特性に合ったコンサルティングアプローチの追求、既存の戦略コンサルティングの枠にとらわれない新たなサービス展開を行う。

前回の記事はこちら

なぜロジカルシンキングが必要か、ロジカルに説明できますか?【戦略コンサル特別寄稿:第1回】

情報収集で、「偏食」していませんか?【戦略コンサル特別寄稿:第2回】

その問題意識、「愚痴」になっていませんか?【戦略コンサル特別寄稿:第3回】