<企業紹介>
伊藤忠商事株式会社
1858年に創業して以来1世紀半の歴史を重ね、現在は世界63ヶ国に約110の拠点を持つ大手総合商社に成長。繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において国内、輸出入及び三国間取引を行うほか、国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開している。
<セミナー参加社員>
梅本良徳
人事・総務部 採用・人材マネジメント室長
1992年入社。自動車部門で輸出業務や経営企画に携わり、北米駐在や自動車メーカー出向を経験。2015年 に広報部でメディア・広告宣伝の責任者を担当した後、2019年より採用責任者を務める。
中村陽
人事・総務部 採用・人材マネジメント室
2017年入社。人事・総務部配属後、初年度にインターンシップの企画・運営を担当。2018年には採用PRツール(HP・パンフレット)を制作。2019年は新卒採用のチームリーダーとして採用戦略立案を行なう。
<企業紹介>
株式会社サイバーエージェント
1998年設立。「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げ、インターネットテレビ局AbemaTVの運営や国内トップシェアを誇るインターネット広告事業などを展開。インターネット産業の変化に合わせ新規事業を生み出しながら事業拡大を続けている。
<セミナー参加社員>
寺脇英雄
新卒採用人事 マネージャー
2013年入社。インターネット広告事業本部へ配属。2014年にマネージャーへ昇格。2016年株式会社CyberBullへ出向。大手ナショナルクライアント・スマートフォンアプリ事業者の営業担当に従事。2019年10月よりサイバーエージェント新卒採用戦略本部へ異動。
パネラーの皆さんの就職活動について
司会:
サイバーエージェントと伊藤忠商事、両社とも若い社員に幅広い仕事と裁量を与え、即戦力として活躍してもらうことを目指していますが、両社の採用ご担当者はかつてどんな就職活動を行い、何を基準に入社する会社を決められたのかをお聞かせください。まずはサイバーエージェントのの寺脇さんからお願いします。
寺脇:
私は就職するにあたって大きく3つの目標を掲げました。まずはかっこいい大人になりたいということ。情熱を持って仕事に取り組んでいる人をかっこいいと思っていました。2つ目は、仕事の成果を給与面も含めて評価してくれるということ。金銭的に不自由な暮らしを送りたくないという思いが強かったんです。そして3つ目は、影響力のある大人になりたいということ。その点、インターネットは個人で全世界と向かい合うことができ、影響を与えられる範囲が圧倒的に広いので、自然にインターネット系の会社を中心に見ていました。この3軸で会社選びをした結果、直観に近い想いでサイバーエージェントに入社を決めました。
司会:
伊藤忠商事のお二人はいかがでしょうか?
梅本:
はい。私の就職活動は30年前ですが、当時は金融が花形で日本経済、世界経済は日本の銀行が牛耳っていました。国際金融や不動産投資、M&Aや企業融資などの仕事に魅力を感じていた私は、金融系を志望していました。しかし、たまたまOB訪問で商社の先輩に出会い、単純に考え方や視点に感銘を受け総合商社に惹かれていきました。その中でも伊藤忠商事の先輩は、時には私の課題や改善点も指摘してくれるなど、一学生である私と真剣に向き合ってくれ、「またおいで」と言ってくれました。様々な人と就職活動を通じて話をしましたが、商社、特に当社の社員が一番輝いて見え、最後に内定をもらった伊藤忠商事に決めたというのが僕の就職活動です。
中村:
私は大学3年生の時にアメリカに留学したこともあり、ぼんやりグローバルに働けて自分の強みを活かせる会社がいいと思い、インターンで外資の投資銀行などいくつかの会社に行きました。その中で気付いたのは、数字やロジックだけでは成り立たない、自分の人間力を駆使してビジネスを創ることができる業界の方が向いてるんじゃないかということでした。商社は、自社で商品やサービスを作ってるわけではないからこそ、「人」で勝負できる業界じゃないかなと思い、最後は商社に絞って就活をしました。そして五大商社の中で一番フラットで挑戦的な環境があり、若手にチャレンジさせてくれる伊藤忠商事に決めました。
新卒即戦力化を掲げる背景
司会:
今、実際に人事の立場で人を見る、人を育てるポジションにいらっしゃる中で、なぜ皆さんの会社は新卒1年目から意図的に負荷を与え、裁量を与えて成長速度を高めようとしてるのですか。
寺脇:
サイバーエージェントのミッションステートメントの中に「若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止」という一文があります。そのため、優秀で意欲のある若手は早期に抜擢して大きな裁量権を与え、早い段階からマネジメントの決断経験を積む環境をつくっています。私も2年目にマネージャーになり、最初に持ったメンバーは38歳、31歳、27歳と年上ばかりでした。そもそも当社は「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げているので、ベンチャー企業としてより多く、大きなチャレンジを続ける必要がある。新卒だから若手だからこそ、ある種世間知らずな高い目標を掲げ、行動してほしいと思っています。
司会:
今まで商社は入社して10年は下積みというイメージがありましたが、その中で伊藤忠商事は少数精鋭組織で若手から裁量与えて成長させていく「新卒即戦力化」を掲げる背景には何があるのでしょうか?
梅本:
一つは社員数が少ないことです。五大商社のうち財閥系と言われる商社の社員数は6000人台ですが、当社は4000人台。人数が少ない分、一人ひとりが早く力をつけて幅広く仕事を行っていく必要があります。そしてもう一つ、当社は160年の歴史がありますが、その間同じことを繰り返してきたわけではなく、絶えず「変化」と「進化」を繰り返してきています。一人ひとりが力をつけないと、「変化」や「進化」のスピードが遅くなってしまう。そうした背景で「新卒即戦力化」に取り組んでいるわけです。1年目から担当業務を持ち様々な経験をすることで、自分の限界値やリミットが見えてくるんですね。自分ができること、できないことが可視化され、2年目以降はそれを踏まえて自分自身の成長に繋げることができるのです。5角形のレーダーチャートの5角がビジネスのスキルや経験だとすると、新入社員のうちはゼロで1年目が終わると1ポイント、それが2・3・4年目でいろんな経験、いろんなキャリアを積んでその5角形自体が大きくなっていく。これが私たちの新卒即戦力化のイメージです。
新卒社員へのフォロー体制について
司会:
ところで即戦力化を掲げて裁量や仕事を与えていくと、与えられる側は場合によってはプレッシャーを感じて押し潰されてしまうことも考えられます。新入社員たちを即戦力かつ会社の財産としてきちんとフォローしていく体制をどう考えていらっしゃるのでしょうか?
寺脇:
サイバーエージェントでは「採用・育成・活性化・適材適所」をすごく大事にしていて、良い人材を採用してしっかり育成して社内が活性化すればどんな事業でも成功確率が上がると信じています。だから研修制度や社員のコンディション把握には力を入れていて、社員のコンディションを把握するため、「GEPPO」というツールを導入しています。月一回、全社員にアンケートを取って、人事側で社員の回答を全て確認し、コンディション把握に努めています。私も子会社にいた際、GEPPOにコメントを記載したときがあったのですが、人事の方から返信を頂き面談をセットしてもらって「見てもらっているんだな」と嬉しくなりましたね。
司会:
全員が熱量高く働いて挑戦を続けると、どうしても出来る人と出来ない人が出てきます。その時、会社としては出来ない人を責めてしまうこともあるのでは?
寺脇:
うちの社内では「人を諦めるな」ってすごく言われるんですよ。うちの社員には、壮大なビジョンを掲げていながら地道に頑張れる、目立たない業務に真剣に取り組んでいる人が多くて、現場で頑張っている人を馬鹿にしないカルチャーがあるので、うまくいってないからと言って、この子が駄目だというより、どうすれば活躍出来るようになるのか?と考える。適材適所をすごく意識した考え方をとってますね。
司会:
伊藤忠商事では、新入社員が失敗するかもしれない、ミスするかもしれないことを踏まえて裁量を渡していくための制度や考え方はどうなっているのでしょうか?
中村:
入社後に良いスタートダッシュが切れるように、内定者期間で様々な研修を徹底的に行います。基礎的な英語、中国語、PCスキルや簿記など内定者の段階である程度レベルアップする教育体制を会社負担で用意しています。入社後には1カ月間の新入社員研修があり、基本的なビジネスマナーや仕事の進め方、経理財務や貿易実務、法務などの知識を勉強します。配属されてからは指導社員制度でサポートしていきます。若手先輩社員が実務指導社員として実務を教え、中堅社員が仕事への向き合い方など精神面の管理を月1回の面談でしっかりと管理していく。それで1年間、しっかり成長をサポートしていくのです。
司会:
入社して2年3年経つと、いつの間にか自分が新入社員だった頃を忘れ、出来ない新入社員を見て「なんでこんなことが出来ないんだ」と思ってしまうこともあると思います。新入社員に接する際に気を付けていることはありますか?
中村:
そうですね、自分で考えて動ける新入社員とそうでない新入社員がいることを、私も指導する立場になってやっと気付きました。自分が指導社員を務める新入社員と週3回ミーティングをやっていますが、そこで彼がどこに困り、何に躓いているのかを可視化することを意識しています。そしてその改善、対策も含め、しっかり行動に繋がるようなアドバイスを行います。そうすることで彼らは少しずつ成長しているのを感じますね。
ご自身のエピソードについて
司会:
ここまで「新卒即戦力化」についての会社の考え方や文化、制度についてお話していただきましたが、実際に皆さんがそれをご自身の肌で体感したエピソードをお聞きして、このパネルを終了したいと思います。よろしくお願いします。
寺脇:
新入社員の時に大阪で営業していた時、ある企業のアポイントを取り付けました。直属のマネージャーが同行できないことに不安を感じた私は、支社長に「この日空いてないですか」と直接交渉しに行きました。結果、私のアポイントに同行してくれるだけでなく、受注する道筋をつけて私に花を持たせてくれたんです。その時、若手社員を前に出して、全社一丸となって若手を育てていくという文化があると感じました。
中村:
私は1年目にインターンを担当した経験です。入社して数カ月のタイミングでインターンをいきなり任され、不安な気持ちでいっぱいでした。まずは行動してみようと思い、営業の同期や内定者へのヒアリングを通じ、インターンの骨子を練っていきました。1年目の自分がインターンのプログラムを全部決めていくという非常に刺激的で胃が痛くなる仕事でしたが、数百人の関係者を巻き込む大規模プロジェクトを任され、死に物狂いで前に進めていくという経験が出来たことが、2年目以降の自分の考え方や仕事のスタイルに大きく活きてきたなとすごく感じましたね。
梅本:
私は20代の頃に、数百名が所属する自動車部門の中の経営企画業務をやる部署で、予算や決算等を管理し、数字周りの戦略を組み立てる担当をやっていました。これがもう目茶苦茶大変な仕事で、来る日も来る日も数字、数字、戦略、戦略の繰り返し。夢の中で数字が1億とか10億とか、ひらひら降ってくるほど仕事に没頭する日々でした。役員とのコミュニケーションを含め、若いうちに経営の仕事に携わったことで、経営者目線や経営マインドが醸成されたんじゃないかと思います。その20代の経験があったからこそ、30代で北米の事業会社や、日本の自動車メーカーの経営を司る業務を行なうことができました。20代に苦労したことが今まさに私の伊藤忠人生の中で繋がってきていると感じています。
司会:
ありがとうございます。企業における「新卒即戦力化」の考え方や施策の背景について非常に参考になるお話を聞くことができました。そしてパネラーの皆さん自身も「新卒即戦力化」の施策によって大きく成長されたことがよく分かりました。今回のお話は、ここにいらっしゃった多くの学生たちの就職活動に今後活かされると思います。本日はどうもありがとうございました。