岩見 宗一郎(写真左)
【Profile】早稲田大学政治経済学部3年生。開発途上国の未来に全力で取り組むNGO職員に出会ったことで、「将来は世界に貢献できる仕事がしたい」と考えるようになった。現在は「世界中の人々をより豊かに、より幸せにしたい」という想いを軸に企業研究に励む。特に商社やコンサルティングファーム、そしてJICAに関心がある。
舩越 洋平(写真右)
【Profile】早稲田大学人間科学部卒業。2009年に総合商社に新卒入社。情報システム室にて社内イントラネットの運営・企画業務、その後、レアメタルのトレード、損害保険スキームの構築等に従事。30歳という節目に異動があったことを機に、次の10年のキャリアを見据え、転職を検討。現在はJICA中東・欧州部 中東第一課副調査役として、北アフリカにあるチュニジアへの有償資金協力分野を中心に、政府間交渉、同国の案件の全体管理、JICAの援助計画策定などに取り組んでいる。
JICAだから、できることがある。
学生 :はじめまして。本日はお時間を割いていただきありがとうございます。
先輩 :こちらこそよろしくお願いします。後輩の役に立てて僕も嬉しいです。
学生 :私自身、JICAにすごく興味を持っていまして、本日は仕事の詳細をお伺いできればと考えております。
先輩 :今日は気軽にいきましょう。ざっくばらんに話した方が、JICAのリアルな姿を伝えられると思います。岩見さんは、どんな企業を希望していますか?
学生 :今は商社やコンサルティングファームなどを中心に検討しています。もともと国際貢献、世界をもっと幸せにできればという想いがあって、開発途上国をはじめとした国や地域に貢献していく仕事に魅力を感じています。このため、JICAも選択肢の一つとして検討しており、今日はその魅力を伺えたらと思います。
先輩 :岩見さんから見て、JICAはどんなイメージですか?
学生 :なんといいますか、崇高なイメージがあります(笑)。世界平和や国際協力といった高い意識を持つ方々が、他者貢献のために全力で突き進んでいるのかなと。
先輩 :ありがとうございます。まさに、他者・他国への貢献を追求するために、公的機関として、開発・外交・経済と言う観点から日本・JICAへの利益も、同時に追及している組織です。その意味では、岩見さんのイメージ通り、世界の課題に対して、志高く仕事をしたいと考え、実行している組織だと思います。
学生 :商社やコンサルティングファームだと、あくまでビジネスとして成立させる必要があると思うんですが、JICAであればより純粋に、その国のために仕事ができるんじゃないかという期待もあります。
先輩 :良いポイントですね。自社の利潤追求が主目的ではない、というのが商社をはじめとした民間企業と、公的機関であるJICAの違いの一つだと思います。民間企業であれば、投下した資金・リソースに対して「どれだけ自社」に「経済的利益」が見込めるかが事業実施の主たる判断基準になりますが、JICAは、その事業を通じて「途上国」、そして「日本」に対して、利益が見込めるか、が重要な判断基準となります。JICAの場合は、利益の定義が、経済的な利益のみならず、社会的利益、外交的利益等、直接的に利潤換算できない部分も、利益と捉えて事業を実施しています。このため、複雑かつ多岐に渡る途上国の課題に対して、JICAは、経済的利益は出づらいが社会的・人道的な利益が見込める場合、事業を実施することもあります。教育や保健医療などがまず思い浮かぶかもしれませんが、民間投資を呼び込むための法整備支援、インフラ整備など、長期的な利潤追求の観点も持ち、国別の協力方針に基づき、幅広く事業を行っています。また、事業効果を保つための事業の持続性も重要と考えています。もちろん、日本政府資金、国民の税金を原資とさせていただく以上、事業の必要性・意義も厳しく問われますが、同僚とは「どうやったらその国の課題が解決できるか」「どうやったらその国がより豊かになるか」ということを重点的に話し合っています。広い目で日本の国益になるかどうかを議論しながらも、中長期的な「国創り」の視点を最重要視し、短期的な利益だけでない点を交えてプロジェクトも立ち上げることができる。その選択肢があることは、JICAの大きな特徴のひとつだと思います。
学生 :やはり商社やコンサルティングファームでは難しいのでしょうか。
先輩 :民間企業でも「この商品、資源を届けることで、その国をもっと豊かにできる」という意志のもとにたくさんのプロジェクトが立ち上がっています。しかし、民間企業だからこそできる事業もあれば、民間企業だからこそできない事業もあることは事実だと思います。ビジネスであるからには、経済的利益をあげなければ、社内的にも、株主からも、実施意義が認められ辛いですし、事業効果の確保・持続性を生みだすことは難しい。もちろん、企業ごとに戦略がありますので、すべての企業にあてはまるわけではありませんが、民間企業でそれを実現するには大きなハードルを乗り越える必要があると思います。
民間企業との違いは、その自由度の高さ。
学生 :商社とJICA、どちらも経験しているからこそ見えてくる“違い”はありますか。
先輩 :そうですね…。やはり自由度の高さでしょうか。JICAを一言で表現するとしたら“国
際協力の総合商社”です。私はチュニジアのプロジェクトを担当しているのですが、これまでも発電案件、海水淡水化案件、洪水案件等と多岐にわたる領域の案件に携わってきました。その国のためになることであれば、様々な方面からプロジェクトを開発できる。それがJICAの大きな魅力だと思います。このため、他の企業であるような、エネルギー部門ならエネルギー、インフラ部門ならインフラと特定の分野に縛られず、より柔軟な発想、より自由度の高い施策を提案することができます。
学生 :選択肢が多いということですね。
先輩 :そうですね。私自身は各分野の専門知識を持ち合わせていませんが、JICAには農村開発部や人間開発部等、「課題部」と呼ばれる事業分野別の部署に各分野のスペシャリストたちがいますし、外部の開発コンサルタントや研究者など、様々な方にも協力をあおぐことができます。もちろんプロジェクトを管理運営するうえでは関係者をまとめる難しさもありますが、数多くある選択肢のなかから解を見つけていくプロセスには大きなやりがいを感じています。
学生 :舩越さんはどんな仕事を担当しているのでしょうか。
先輩 :商社で言うところの営業にあたると思います。JICAには大きく分けて「有償資金協力」「無償資金協力」「技術協力」という3つのアプローチがあるのですが、このうち、私が主に担当しているのはそのうちの「有償資金協力」です。相手国政府と協議しながらプロジェクトを立上げ、日本政府からの予算獲得、案件の運営に至るまでを手掛けています。
学生 :どちらかと言うとサポートがメインなんでしょうか。
先輩 :実は転職前、私もその要素が強いと思っていたのですが、入社してからそのイメージが間違いだったことに気づかされました。JICAの事業は、どの国・地域で、どのような分野に協力していくか、といった大きな方向性や、予算規模の目安などはありますが、具体的なプロジェクトの内容や規模は、JICAが、相手国政府とともに検討し、案件形成していきます。そのため、相手国政府と「どんな未来をつくるのか」「そのために何が必要なのか」と膝をつき合わせて議論していきますし、日本のリソースを使ってなにができるのかを、現地のJICA事務所とともに、相手国に積極的に提案しています。先ほどの3つのアプローチを中心に、ソフト・ハード、時にはファンドへの出資なども含めた、沢山の手法の中から、アイデアをかたちにするおもしろさを肌で感じています。
学生 :反対に難しさ、厳しさはあるのでしょうか?
先輩 :パブリックな立場であるということが、民間企業との大きな違いですね。総合商社は、他の企業と比べ、アメーバとも例えられるように、既存の事業分野・手法にとらわれず、時機に応じて形を変えながら、収益を上げています。このため、収益獲得のために、大胆な発想を駆使して事業を実施できる、そんなダイナミクスが風土としてあるように思います。JICAも、同様に柔軟な発想で事業実施が出来ますが、やはり民間ではなく、公の機関という立場としての機能が求められます。相手国政府からすれば私たちJICAは“日本政府の代表”でもあるため、より公平性、カウンタビリティが求められます。例えば相手国政府とJICAでの会議の議事録も、カウンターパートの担当者から、そのまま現地政府の高官へと報告がなされ、オフィシャルな発言として扱われます。このため、発する一言一言に責任を持つ必要がありますし、日本の税金が原資である以上、誰から見ても正しいと思われることを、正々堂々とやっていく。口で言うのは簡単ですが、そのレベルにまでアイデアを昇華させることは大変ですが、その分、やりがいを感じますね。
事業リスクが高い地域にこそ、JICAの存在価値がある。
※写真提供:久野 真一/JICA
先輩 :岩見さんは、興味のある国や地域はありますか?
学生 :はい。私はアフリカに興味があるのですが、最近のニュースを見ていると商社の進出が特に際立っていて。アフリカの国際貢献の最前線であれば商社が一番かなと思っています。
先輩 :実は私もアフリカに貢献したくてJICAに転職しました。きっかけは、学生時代、大学の恩師の取り組むプロジェクトサイトの視察を目的とした、西アフリカのギニアの田舎村での2週間のホームステイでした。首都から車で16時間揺られると車道がなくなり、そこから徒歩で更にふたつの山を越えて辿りつくような場所でした。日本と比べると、無いものを挙げたらきりがないような場所でしたが、その村の人たちの目がとてもキラキラしていて、純粋で、日々そこにあるもので豊かさを感じ、幸せに生きている。それは、言葉ではうまく表現できませんが、アジアの国々を旅して感じたものと似ていましたが、アジアとは一味違った感覚でした。一方で、そんな暮らしの中で、村の大人は、その当時、村の唯一のメディアであった、ラジオを聞きながら「この国をよくするにはどうするべきか」を議論していました。ただ、職もなく、それを形にするための術を知らない。これは本当に勿体ない事だと思いました。日本の知見を使って、この人々の想いをかたちにできないか。そんな気持ちがふつふつと湧いてきたことを覚えています。
学生 :それが舩越さんの原点になったのでしょうか。
先輩 :そうですね。その当時はギニアのとある村での経験しかありませんでしたが、アフリカは人口も多いし、これから発展していく地域。その村人と同じような気持ちを持った人々をエンパワーメントすることができれば、世界が変わるんじゃないかとすら思っていました。
学生 :その想いは商社では叶わなかったのでしょうか。
先輩 :叶えられないことはないと思います。ただ、私の経験上、それを直接的な目的とし
て、実現するのは決して簡単ではないと思います。商社の取り組むアフリカビジネスと言えば、自動車販売、プラント建設、オイル・ガスの開発などの分野がメインで、私が実現したかった、地方部人々のエンパワーメントに直結した事業の実現は、商社として追求すべき事業として、ど真ん中ではなかったように思います。一方、私自身、商社で複数の部署を経験し、各々の部署でやりがいもありましたし、「商社は人なり」と言われている通り、沢山の人に磨かれ今があります。特に、一見不可能に思える事を実現可能にするための知恵・発想力、情報の取り方、リスクの考え方、物事の判断スピード等は、本当に勉強になりました。月並みながら、ビジネスのいろはを学ぶという点でも非常に素晴らしい経験をさせてもらったと思っています。ただ、30歳という人生の一つの節目を迎え、大げさかもしれませんが、人生を変えるならこれからの10年が勝負であると感じました。自分が描きたい将来とは何か。それは、私にとって学生時代の想いの実現でした。アフリカの人たちの力になりたい。ただ、自分にはまだその力がない。だから、最もそのような知見が学べ、実際に事業化できる組織に身を置いてみたいと考えるようになったんです。
学生 :JICA以外も検討されたんですか?
先輩 :はい。ただ、民間企業だと商社以上に私がイメージしている仕事に近いことが出来る環境はないように見えたため、JICAに絞った転職活動を行いました。JICAは世界に数多くの拠点を抱えていますし、プロジェクトの領域も多岐にわたっています。民間企業ではなかなか投資できない地域にも数多くの駐在員を配置しています。そのため、ここ(JICA)でなら、どうしても民間企業ではその事業リスクなどから二の足を踏みやすいアフリカに行けるチャンスも多く、実施できる事業のイメージもぴったり合うのではと思ったんです。実際に、相手国政府からのJICAの強みとして、私が想像していたような分野での支援を求められるケースも多く、まさしくイメージ通りでした。
「世界」を目指すなら、JICAは有力候補になると思う。
先輩 :少しはお役に立てたでしょうか。
学生 :ありがとうございます。JICAの仕事のイメージ、魅力が見えてきました。ただ、商社もとても魅力的ですし、悩みが増えてしまいました(笑)
先輩 :ちょっと現実的な話になりますが、給料や待遇面も一般企業と比べて遜色ないですし、海外赴任を筆頭に、沢山のチャンスがあることがJICAの大きな魅力です。
学生 :特に魅力的だと感じるものはありますか?
先輩 :JICAでは新卒で入構する職員全員に対し、1年目に海外研修を実施していますし、20代、30代と凡そ10年に1度は海外赴任のチャンスが巡ってきているかと思います。仏語圏のように特殊言語が出来ると、更にそのスパンが短くなっている例もあるようです。私自身、今は日本で働いていますが、次の異動の際にはアフリカの駐在員として現地に赴任することになりそうです。
学生 :どちらかというとお堅いイメージがあるのですが、希望は通りやすい方なんでしょうか。
先輩 :すべてが叶うわけではありませんが、職員のやりたいことには真摯に耳を傾けてくれます。特に若手の場合は希望の国に挑戦させる傾向が強いですね。私自身、アフリカを希望したことで、北アフリカのチュニジアを担当することができています。
学生 :世界を目指している学生、行きたい国がある学生にはとても魅力的ですね。
先輩 :私自身にとってもそうでしたから、その気持ちはよく分かります。もうひとつ、「学位取得制度」についてもぜひ紹介させてください。
学生 :大学院で勉強できる仕組みでしょうか?
先輩 :そうなんです。一般企業でもMBA取得のための支援はありますが、JICAではその範囲がとても広いです。都市・地域開発、教育、保健医療、環境、経済、金融、公共政策など、JICAの仕事に関連するものであれば、どんな分野を選んでもいいんです。国内外に関わらず学費や渡航費を援助してくれますし、いったん仕事を離れて自分の専門性を更に高めることができる環境があります。
学生 :なんだか倍率が高そうですね。
先輩 :確かに人気はあるようですが、それでも年間20人ほどが大学院で学んでいますよ。この制度のすごいところは、「その後のキャリア形成の基軸にできる」という点です。JICAでは色々な部署を経験してジェネラリストになるのが一般的なキャリアですが、自分の専門性を磨いてスペシャリストになることもできます。大学院で学ぶ領域は職員自身が決めるので、たとえば「アフリカ×教育」という分野に絞り、オンリーワンの存在としてキャリアを追求していくことも可能です。JICAの支援内容の幅広さが、そのままキャリアの幅広さにつながっているとも言えますね。この制度を活用すれば、時代の変化、ニーズの変化と自分の興味関心に合わせた、専門分野の設定も可能です。
学生 :今日は本当にありがとうございました。
先輩 :いえいえ。「世界」が就職活動のキーワードにあがるなら、JICAは自信を持ってお薦めできます。今回をきっかけに、興味を持ってくれたなら嬉しいです。