<企業紹介>
「東京〜名古屋〜大阪」という日本の大動脈の新幹線輸送、そして名古屋、静岡を中心とした東海地域の在来線輸送を担うとともに、鉄道事業との相乗効果が期待できる不動産開発などの多彩な事業を展開しているJR東海。現在、国家プロジェクトともいえる超電導リニアによる中央新幹線計画が進行中であり、また世界最高水準の高速鉄道に関する総合的な技術力を活用し、海外における高速鉄道プロジェクトへの事業展開も強力に推進している。
<人物紹介>
泉 秀格
人事部 人事課長
1995年入社
総合職事務系社員として入社。以降、主に「人」にまつわる領域に関わり、過去には東海道新幹線の品川新駅開業の際の要員計画や、名古屋駅社員のマネジメントを担う総務科長、さらには経営企画部門で、東海道新幹線の大規模なリノベーションに向けての国交省との折衝などに従事。2017年より現職。
選択基準は、自分と価値観が合うかどうか。
――本日はよろしくお願いいたします。まずは、ご自身の就職活動を振り返っていただけますか。
私は法学部出身で、実は当初、裁判官や検察官などの法曹を目指し司法試験の勉強にも真剣に取り組んでいたのですが、当時はまだ合格率は2%程度、合格まで2留3留もザラという時代。それよりは早く社会に出て、社会の役に立ちたいという思いから一般企業への就職に進路を変更しました。そもそも私が法曹の世界を志したのは、社会正義の実現を通して人々の役に立ちたいという想いから。ですから就職にあたっても、社会に貢献できる公共性の高い仕事に就きたいと考え、生活のインフラを担い、世の中の隅々まで影響を与えられるような企業を志望し、鉄道会社や金融機関などを検討しました。
――なかでもJR東海を選ばれたのは、どのようなお考えからだったのでしょうか。
就職活動でお会いした社員の方々に惹かれたのが、いちばん大きな理由でしたね。みなさん、自分の仕事を通して「日本の国を良くしたい」という想いを、学生の私に真正面から語ってくださった。奇をてらったり格好つけたりすることなく、使命感と責任感を持って真摯に仕事に臨まれているのが強く感じ取れて、私の価値観に合うと感じたのです。しかも、毎回1時間以上かけて私の話を聞いてくださった。人と向きあうことに労を全く惜しまず、人を大切にする企業だという印象を受けたことも、当社を志望した理由のひとつです。
加えて言えば、父が元来の旅行好きで、幼少期より様々な土地をともに旅しました。旅は日頃の生活では得られない知見や感動をたくさん与えてくれるもの。そういう旅の提供においても貢献できる会社であるな、と思いながら志望しました。
原動力は、社会に貢献したいという想い。
――ご自身と価値観が合う企業だと感じて入社されたとのことですが、こちらで20年以上キャリアを積まれて、いまその選択は正解だったと思われますか。
これは決して誇張でも何でもなく、JR東海の社員はみな「社会に貢献する」というスピリットを持って仕事に取り組んでいます。自分だけ成績を上げて評価されればいい、というスタンドプレーではなく、「世の中を良くしたい」「次の世代に価値のあるものを残したい」という使命感と責任感を共有している。こうした環境で仕事できるのは私自身、本当に心地よいですし、仲間と同じ価値観を持ち、同じ方向を向いて仕事ができるのはとても幸せなことだと、いまあらためて感じています。
――いま泉さんがおっしゃった「社会に貢献する」ことを、これまでの仕事のなかで実感された機会はありましたか。
最初にそれを実感したのは、入社5年目、東海道新幹線の品川駅開業のプロジェクトに人事課の一員として関わった時でした。品川に新駅を作るにあたって現場に何人の社員を配置すべきか、その人員計画を任されたのです。世の中の情勢などを考慮して品川駅の旅客流動を予想し、さまざまな部署と擦り合わせながら必要な駅員や乗務員の数を算出。結果、従来より100名規模の増で新卒人材を採用しなければならないことが判明し、どう確保していくか、その戦略の立案と実行まで託されました。もはや人事課のスタッフだけでは対応できないと考え、社内に働きかけて横断的なプロジェクトチームを立ち上げ、各部門の若手社員の協力を得ながら、学校訪問などの採用活動を推進。努力の甲斐あって想定していた要員の採用に成功し、無事に開業を迎えることができました。私は総合職事務系なので何か構造物を実際に作り上げるわけではありませんが、「人」の面から新しい駅を形にすることに貢献できた。いま新幹線品川駅は本当に多くのお客様に利用していただいていますし、人々の生活になくてはならない存在となっている。そこに自分が大きく関われたことを、いまでもとても誇りに思っています。
――鉄道会社というと、保守的でお堅い組織だというイメージがあるのですが、御社は若いうちから重大な仕事を任されるのですね。
鉄道の仕事の現場は、安全を守るためのルールを厳格に守ることが求められるため、企業体質も保守的に映るのかもしれませんが、会社の進むべき道を切り拓き、多くの社員を率いていく総合職は、むしろ新しい発想や創造力を重んじられる風土だと思います。特にいま弊社が進めている超電導リニアによる中央新幹線計画など、まだ誰も経験していない領域に足を踏み入れようとしている訳で、20代の若手にも重要な任務を託し、プロジェクトの最前線で奮闘している社員もたくさんいます。
本質を見極める力があれば、変化に対応できる。
――テクノロジーの進化などにより、ビジネスを取り巻く環境も大きく変化しています。そんななかで充実したキャリアを積んでいくためには、何が大切だとお考えですか。
新たなテクノロジーが次々とオフィスに導入され、それを駆使することで仕事の成果が大きく変わる時代になりつつあります。しかし、テクノロジーはあくまで手段であり、勉強すればおそらく誰でもいずれは慣れて扱えるようになるはず。大切なのは、それらを使っていま何をやるべきなのか、世の中の大きな動きを踏まえて考えること。たとえば私が携わっている人事の領域ではいま「働き方改革」が社会の大きな課題になっています。しかし、世の中ではそのフレーズだけが独り歩きしているような印象を受けなくもありません。なぜ弊社が今それをやらなければならないのか、何を変えることが本当に意味のあることなのか、その本質を見極めなければ、おそらく何の価値も生み出せない。そうした本質を掴む力をつけることが、どんな時代の変化にもしなやかに対応できる人材となることの鍵であると思います。
――いま泉さんがおっしゃった「本質を見極める力」というのは、どうすれば身につくのでしょうか。
自分が興味のある分野の本を読み、そこから派生的に周辺分野の本も読んで知識の層を厚くしていくとか、様々な価値観を持つ人と話しをするとか、旅をして視野を広げ知見を広げるとか、労力はかかるものの、それらが徐々に自分の軸となって思考も鍛えられると思います。ネットのまとめサイトだけを見て、物事を判ったつもりになっているようでは、当然身につかないと思いますね。
――少し乱暴な質問になりますが、JR東海の事業における「本質」とは何なのでしょう。
たとえば、弊社がいま挑んでいるリニア中央新幹線のプロジェクトも10年後には東京〜名古屋で開業する予定ですが、けっしてそこがゴールではない。我々が常に意識しているのは、30年先、50年先に社会からどう評価されるか。東海道新幹線も計画当時、日本のモータリゼーションが進むなかで「新規格の高速鉄道を莫大な予算を投じて作る必要が本当にあるのか」と世間から叩かれ、世紀の大愚策とまで言われていたのですが、いまや日本経済や国民生活を支える大動脈になっている。2014年に東海道新幹線開業50周年を迎えた時、テレビなどのメディアで特集が組まれましたが、いろんな方が自分の人生に重ねあわせて新幹線への感謝の言葉を述べられ、お祝いムードに包まれた内容でした。リニア中央新幹線もぜひ、そんな存在にしたい。今日明日の利益だけを追い求めるのではなく、世の中を大局的に捉えて、30年後50年後にどう感謝されるものを創り上げるか。そこに我々の仕事の「本質」があると考えています。
――自己のためではなく、社会のために力を尽くされているのですね。
特に中央新幹線の仕事は数十年単位の仕事なので、その成果が表れ、人々から本当に感謝されるようになる時には、私自身はもうこの会社にはいないかもしれない。それでも、自分の子供たち、孫たちの世代のために、感謝してもらえる価値のあるものをこの国に残したい。この会社ならそれが果たせる。自分の人生を賭けるに値する仕事だと思いますし、おそらくそうしたマインド、夢、情熱を持ち続けることが、長く会社で活き活きと働いていく上で、これからはいっそう大切になるのではないでしょうか。
心のコップを上向きにして、生きていこう。
――学生のみなさんに向けて、社会人の先輩として就職活動にどう取り組むべきか、お考えをいただけますか。
やはりいろんな人に会って話を聞くことがいちばんだと思いますね。弊社について言えば、リニア中央新幹線の企画・建設や高速鉄道技術の海外展開など一見華やかな面が注目されがちですが、こうしたプロジェクトが推進できるのも、東海道新幹線や在来線を日々絶えず安全に運行し、関連事業の分野でも様々なサービスに取り組み、お客様からの信頼を得て、しっかりと収益を上げているからこそ。そして、そこに携わる誰もが自分の仕事に誇りを持っています。こういう土台の部分の泥臭さやそこで働く人の熱意は、実際に直接会ってお話しさせていただかなければ、なかなかお伝えできません。ですから学生のみなさんも、いろいろな企業の人に直に会って、その事業内容のみならず働く人の信念・情熱のようなものも感じてもらって、自分の価値観と合うかどうかを肌で確かめ、ここなら人生を捧げられると思える場所を選んでいただきたいです。
――ますますグローバル化の進むこれからの時代を生きていく上で、ビジネスパーソンとして身につけるべきことはありますか。
ドメスティックなイメージのある弊社の鉄道事業も、昨今は積極的に海外展開を図っており、米国テキサスでの新幹線建設プロジェクトなども進行中です。日本の優れた鉄道技術を世界に展開することは、その国に暮らす人々の生活の質の向上にも貢献しますし、巡り巡って我が国の経済にも寄与する。非常に意義のある取り組みであり、弊社でもグローバル人材の育成に力を入れています。総合職は毎年100名ほど新卒を採用していますが、近年は毎年10名程度を社費で海外の大学や企業に派遣しており、若いうちに海外で修業を積んで、その上で国際関係業務に従事するチャンスも大いにあります。
――では最後に、これから社会に出るみなさんに向けて、有意義なキャリアを送るためのアドバイスをいただけますでしょうか。
私が若手社員にいつも話しているのは「心のコップを上向きにしよう」ということ。仕事をしていると、良いこともあれば悪いこともある。心のコップを上向きにしていると、辛い経験もどんどん入ってくる。でも、それを避けてコップを逆さまにして蓋をすると、何もチャンスが訪れなくなる。そんな人生はやはりつまらない。最後は弊社の宣伝になって恐縮ですが、JR東海はコップを上に向けていれば、尊敬できる上司や先輩たちから愛情が注がれ、いろんな機会を与えられ、人間としても大きく成長できる場だと思っています。