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伊藤忠商事株式会社

伊藤忠商事社員が語る、「グローバルに活躍するビジネスパーソンの基礎と、その先にあるプロフェショナルとしての仕事」

インタビュー

世界中でさまざまな事業分野に携わっている伊藤忠商事。その中でも資源分野の上流にあたる「石油開発」を担当する社員の方から、ロシア駐在時代の話や就職活動についてのアドバイス、さらには楽しかったことや苦しかったことなどを、包み隠さずすべて話していただきました。

<企業紹介>
1858年、初代伊藤忠兵衛が麻布の行商で創業したことにはじまった「伊藤忠商事」。世界63ヶ国に約120の拠点を持つ大手総合商社として、繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において国内、輸出入及び三国間取引を行うほか、国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開する。

<人物紹介>
那須 喜彦
慶應義塾大学出身
2013年入社
エネルギー・化学品カンパニー 石油・ガス開発部
入社以来、一貫して石油開発を担当。2年間のロシア駐在も経験した。大学時代は、慶應義塾湘南藤沢高等部テニス部の学生監督として活躍。部活動に対しての高校生たちの熱い思いや荒削りなアイデアを汲み取りながらも、より効率的に最大の練習効果を得るべくベストな形となるよう手助けしてきた経験は、現在の業務にも大いに活かされている。

総合商社は、発展途上国におけるマーケットの爆発的増加に仕掛けていける

―――ご自身が、総合商社を目指された理由を教えてください。―――

学生時代、「発展途上国には新しいマーケットがある」ということを非常に強く感じていました。間接的なきっかけは、韓国の友人宅にホームステイをしていたときの気付きでした。「冷蔵庫の横に何かやたら大きな機械があるな」と思っていたのですが、それはキムチ用の冷蔵庫。本来の冷蔵庫よりも大きく、「これはすごいな」と衝撃を受けたんです。キムチ専用の冷蔵庫なんて、日本人にはまず売れませんよね。隣国である韓国でさえ、言葉や文化も違っていて、こんな風に我々にとっては謎のマーケットもある。それならば、地球の反対側にはもっと異質なマーケットが、確実にあるはずです。経済的に発展して国民の所得が増え、その国の固有の文化も花開く、このようなステージでは、この日本とは異質のマーケットが、それこそ日本では考えられないスピードで拡大していくので、そこには間違いなくビジネスチャンスがあります。そんなチャンスにビジネスを仕掛けていくことができるのは、やはり総合商社しか無いかな、と。

―――最初から、総合商社に絞っていたのですか?―――

いえ、他にも色々な業界を見ており、広告代理店や不動産会社なども受けていました。他社から内定もいただいており、気持ちが傾いていた時期もあったのですが、そんなときに、自分は何がやりたいのだろうかと問い直したんです。経済発展がもたらす、発展途上国のマーケットの拡大というのは、おそらく1つのジャンルだけの話には留まりません。たとえば、エネルギー需要が大きくなればプラントを用意して、電気が通れば電灯や家電を使うようになって…と、幅広い分野に対応できるだけの総合力が必要になってきます。それらは広告代理店や不動産会社などではカバーが難しい。専門商社にもメーカーにもできない、総合商社にしかできない仕事だと思った、ということです。

―――入社前からエネルギー分野への配属を希望されていたのですか?―――

それも実は違いました。発展途上国に貢献したいと考えて、ぱっと思いついたのは不動産分野で、面接時にもそう伝えていました。しかし、そこから少し時間も経って、伊藤忠商事の内定者として周りの方々にお話を伺うことで、もう少し深く考えてみたほうがいいのではないかと思い始めました。国が成長し、文化が発展するための土台となるのは、やはりエネルギーなんですよね。地下に埋まっているものがあるならば、それらをどうやって活用して国の力にしていけるのか。そこに携わりたいと思い、石油開発を希望し配属が実現。大変うれしかったです。

現実味の無い数字に苦しめられた日々が、今の自分をつくっている

―――入社してからこれまで、どのような仕事をされてきましたか?―――

入社以来ずっと、ロシアの石油開発を担当しています。商社では川の流れに例えて、上流・中流・下流というふうにビジネスを分類して考えますが、石油開発はまさにその上流。1~2年目は日本で、「サハリン1」という、ロシアのサハリン(樺太)で進められている石油開発プロジェクトの管理に関わっていました。
3年目の7月からはロシアへ渡り、1年間のロシア語学研修。4年目にはそのままさらに1年間、実務研修生として、モスクワ事務所で働きました。
5年目の7月末に帰国してからは、ロシアの石油開発の中でも、新規案件を開拓していくという仕事を任されています。

―――今までにつらかったことや苦労したことはありますか?―――

2年目が一番つらかったですね。1年目のうちはまだ新人なので「これはどういうことですか?」と堂々と質問もできるのですが、後輩が入ってくるとそういうわけにもいかず、分からないことがあったのに確認を怠ったまま仕事を進めてしまい、後々問題が起きてしまったこともありました。2年目としての実力に見合っていなかったと反省しています。
仕事内容にも苦労しました。プロジェクト管理をしながら、数千億円という規模の、部の決算も担当。プロジェクトごとの決算担当者から数字を集めて、部としての最終的な数字を作り上げるという仕事なのですが、当社ではこれを若手が担当するという文化があり、2年目の私も例に漏れず受け持つことになったんです。
ただこれがもう意味不明な数字だらけで、全く理解ができない状態。とりあえず提出してみたものの金額がズレていたりして、その度に叱られながらやっていました。
そもそも仕事全体の流れがイメージできていないままに予算管理をしている状態でした。海外の企業の名前と数字が連なっている資料を見たところで、「ホントにこんな会社あるのか?」と全くピンときませんでしたし、自分にとっては現実味の無いデータの羅列でしかありませんでした。
当時は本当にただの数字にしか見えていなかったので、決算と言われても全くピンと来ず、ただ流れ作業をしているみたいで本当につらかったです。
しかしながら改めて思い返してみると、もしもあの時期が無かったら、今新規案件を任せてもらえてはいなかっただろうというくらい良い経験だったとも言えます。決算業務を行うには会計や法務といった知識が必須ですから、当時かなり勉強しました。それを続けているうちに、会社の財務諸表を見れば、その会社の経営が健全かどうかを見極める力が自然と付いていきました。現在、石油開発の新規案件を担当する中で、企業の買収を検討することがありますが、対象となる会社の財務諸表から企業体質の良し悪しを判断することができるようになりました。数字に強くなるのは、商社で働く上では非常に重要なスキルです。2年目という若手社員に決算の取り纏めを担当させるのにも、大きな意味があると気が付きました。

夢物語だったことが目の前で繰り広げられていく、ロシアでの体験



―――希望だった海外派遣が実現して、ロシアへ行かれて、いかがでしたか?―――

最初の1年間は語学研修なので、ひたすら語学の勉強に打ち込んでいました。朝から晩まで毎日ロシア人の先生からロシア語を学び、1年間でロシア語試験に合格しなければなりません。私はあえて厳しいと評判の先生のプログラムを履修し、8カ月で合格するという最短記録を作りました(笑)。残りの4カ月は少しゆったりしながら、実用的なロシア語を勉強していました。
語学研修を終えて実務研修に入ってからは、最高に楽しかったですね。今まで夢物語だったようなことが目の前で繰り広げられていく感覚です。それまではただのデータとしてしか知らなかった情報が、急激現実味を帯びていく。「ああ、あの企業はこういうことをやりたかったのか、あの人はこういうことを伝えたかったのか」と。過去の議事録で名前だけ見たことがあった人も、実際に会ってみて、イメージが現実のものになり、どんどん仕事が楽しくなっていく。これでようやく、石油・ガスの業界に一歩足を踏み入れることができたんだ、と感じました。

―――ロシアでの仕事はどのようなものでしたか?―――

モスクワ事務所には多くの社員がいるわけではないので、さまざまな業務を並列で進めていくことになるのですが、石油開発においては、良い案件があれば投資すべきかどうかを考え、東京本社に紹介するといったことも行っていました。石油開発には、石油がそこにあるのかを調べる「探鉱」、それらを取り出すための「開発」、販売できる状態にしていく「生産」の3つのフェーズがあります。たとえば、そこに石油があると分かっていてもお金が無いので掘ることができないという案件や、既に石油は出ているがその権益を持つ会社がどうしても早期にまとまった金額で販売したい等の事情があるという案件などは、確実性の高い優良案件と言えます。良い案件をどれだけ発掘できるかというのは、当然当社の評価にも繋がってきます。

―――海外で仕事をしていくうえで、心掛けていることはありますか?―――

常に、自分の常識が相手の常識だと思わずに話すということを考えています。当社にとっては良い案件であっても、相手にとっても同じとは限りません。相手が何を望んでいるのか、規模の大きさなのか、金額の問題なのか、誰といっしょに仕事がしたいのか、切り口は色々ありますが、時間をかけて何回も何回も足を運んで、共通の認識をしっかり擦り合せていけば、「この案件は条件が合致しているな、じゃあ伊藤忠に声をかけてやろう」と思ってもらえるようになる。これが重要です。
そして、最も大事なことは、それが良い案件であると、自分自身が信じることです。疑問を感じながら話をしても、それは私の言葉や態度の端々に出てしまい、相手にも伝わってしまう。交渉力といったテクニックも重要ではありますが、ロシアビジネスではお互い第2言語である英語を使いますから、どちらかと言うと流暢な会話よりも、ノンバーバルなパッションの部分のほうが、結構大事だったりします。そして同時に、一度客観的になって、「この案件は本当に進めるべきなのか?」「お互いにとって良い条件だろうか?」「よし、やはり良い案件だ、このまま進めよう」ということを繰り返し立ち戻って考えるという作業も行います。信じることと立ち戻ることは矛盾しているようですが、文化も考え方も違う相手に、単純にパッションだけで乗り切ることはできませんから、ロジックも必要になってくるわけです。その繰り返しを行うことで、良い案件を成功させることができます。

企業のイメージに影響され過ぎず、「素」の自分を出して戦ってほしい



―――現在の新規案件の仕事について教えてください。―――

詳しくはまだ公表できないのですが、私がロシア駐在中に担当していた案件を、次のステップに移行するために、東京へ持ち帰って進めているところです。上司といっしょに色々なところを回ってやっと発掘できた案件なので、すごく思い入れがありますね。
新規案件に携わる人間は主に、業界分析、相手国の政治や経済、競合の動きなどに目を光らせながら、大体2カ月に1度くらい現地に出張へ行って、ビジネスチャンスがないか探っています。あとは日本から現地のパートナーや現地事務所と頻繁に連絡を取り合ったり、社内でのデスクワークや会議を通して、どうやって現状の課題を崩していくか、色々な方向から戦略を考えたりしている日々です。

―――今後の目標を教えてください―――

とにかくプロフェッショナルになりたいですね。1~2年目のときは大した強みも意識しないまま過ごしていましたが、3年目からはロシア語という武器を手にし、4年目にはロシアの情勢にも詳しくなりました。「ロシアのことならこいつに聞け」というような強みが1つできたので、それをさらに尖らせていきたいです。あとは、裏方でも構わないので、社会人人生において、「この案件は自分が手掛けたんだ」と言えるような仕事を残していきたいです。

―――最後に、就活生へアドバイスをお願いします。―――

私は今、多くの学生さんとOB訪問で話をする機会があります。学生さんと会ってみてよく思うことは、「もっと本音で来てほしい」ということです。実は真面目で大人しい性格なのに、「この会社は明るい人材を好むのでは?」と、わざと明るく振舞ったり強がって見せたりして、入りたい企業のイメージに自分のキャラクターを合わせにいく人が一定数います。それは全く必要ありません。「素」の部分を気に入ってもらえる会社が1番良いですよ。そうでなければ、入社後に苦労してしまいます。
これは私自身が就職活動のときに感じたことでもあります。総合商社以外にも色々と見てきたとお話しましたが、業界によっては、エントリーシートや一次面接などの早い段階でことごとく落ちています。一方で商社はすべて最終まで残ったので、「素」が合っていたのかなと思います。その業界、その会社が、適材適所で人材を選んでくれると信じて、ありのままを出してみてください。「素」の見せ方については、考えて工夫していく必要はもちろんありますが、心の底から思っていること、本当にやりたいことで戦ってほしいというのが、私からのメッセージです。

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